第27号 北朝鮮は何を望み、今後どういう手を打つのか!?
北朝鮮は何を目指しているのか?
北朝鮮が目指しているのは、
①アメリカ本土を核兵器で攻撃できる能力を獲得し、
②アメリカから先制攻撃を受けたとしても反撃できる能力を有したうえで、
③平和協定を締結すること
でしょう。
北朝鮮は核兵器を保有せず、ついには体制転換させられたイラクやリビアの二の轍は踏まないという意思を明確にしています。8月7日のARF(アセアン地域フォーラム)閣僚会合に際して、北朝鮮・李外相はこの立場を明確にしたようです。
上述の①②のうち、①については「①-1核弾頭の小型化」「①-2ICBMの開発」が重要なステップとなります。まず「①-1」ですが、米国防情報局(DIA)の分析結果として、北朝鮮が核弾頭の小型化に成功したと米ワシントン・ポスト紙が報道しました。また保有している核弾頭の数は60発としています。
つまり「①-1」の核弾頭小型化はすでに実現していることになります。そうだとすれば問題は「①-2」となります。そのポイントは、飛距離=アメリカ本土に届くかどうか。そして、大気圏再突入技術の確立です。
まず飛距離については、Foresight誌平井氏の分析によれば、7月4日のミサイル発射はICBMではあるものの、アメリカ本土には届くかどうかわからないグレーゾーンでした。しかし7月28日のミサイル発射に関しては、「アメリカ本土に届く」というメッセージを明確にしたものだそうです。実際、多くの専門家はアメリカ本土に届きうると分析しているようです。
次に大気圏再突入技術については、北朝鮮は「確立した」と主張していますが、日米韓当局は、いまだ確立できていないとの見解のようです。
北朝鮮はこれまで「ロフテッド軌道」と呼ばれる、角度高く打ち上げて比較的近距離に着弾させる手法を取ってきました。その結果日本海等に着弾しているわけですが、実はこの「ロフテッド軌道」では、大気圏再突入技術を確立するためのデータ収集ができないとの説があります。米ジョンズ・ホプキンス大学の北朝鮮分析サイト「38ノース」も7月28日のミサイルは大気圏再突入技術を習得していないとしました。
そうであれば、いまだ北朝鮮は大気圏再突入技術を確立していない、ひいてはICBMの開発を完了していないことになります。
とはいえ、ロケット技術専門家のマイケル・エルマン氏によればあと2, 3回実験をすれば再突入技術を習得できるとのこと。そしてそれは2018年中にも可能だとのことです。
レッドライン(=譲れない一線)は大気圏再突入実験を可能にするミサイル発射
アメリカとすれば、そのような実験は何としても阻止しなくてはなりません。すなわち、大気圏再突入技術習得を可能にする「ロフテッド軌道でない」「数千キロのICBM発射」、つまり日本を超えて太平洋に着弾するような実験が、レッドラインに相当しうると考えることが可能です。
北朝鮮が予告している島根、広島、高知の上空を超えグアムに到達するミサイルは「火星12」であり、射程距離は最大4,500kmと考えられています。これは中距離弾道ミサイルであり、ICBMには該当しません。
したがって、仮にこの発射計画を金正恩氏が実行に移したとしても、レッドラインを超えるとは言い切れない、ギリギリの線を(おそらく故意に)探っていることになります。韓国や日本はいかなる形であれ戦争は望まないでしょうから、合理的に考えることができるならば、北朝鮮がギリギリの線を行く限り、トランプ大統領が軍事行動をとる可能性は低いでしょう。
ただし、常に進歩し続けているかに見えたミサイル実験が突如として「ギリギリの線」上で停滞し始めたとしたら、国内的な威信が失墜してしまう可能性があります。つまり北朝鮮としては、アメリカが交渉のテーブルに着くまで、「進化」を続けなくてはなりません。もちろん北朝鮮はまだいくつかのステップを用意しているでしょう。しかしながら北朝鮮にとっても、交渉に着くまでのタイムリミットが迫っているという見方もできるかもしれません。
北朝鮮が望んでいるのはアメリカとの戦争ではなく、あくまで対話・交渉
北朝鮮としても、アメリカと戦争になった場合、韓国・日本に大損害を与えることができたとしても、アメリカに勝てるとまでは思っていないでしょう。つまり、北朝鮮にとって戦争は自殺行為です。そうすると、これからもアメリカが戦争を決断しない範囲のギリギリの線を探っていくことになります。
今後も北朝鮮が核について譲ることはないと思われます。そうすると対話のテーブルに着くために北朝鮮ができる譲歩はICBMですが、こちらは今のペースで実験を続ければ2018年にも完了してしまいます。そこで「ICBMをロフテッド軌道ではなく実軌道で飛ばす実験は実施しない」と約束することが、北朝鮮が提供し得る譲歩になります。
もう1つ、北朝鮮が提供し得る譲歩があります。それは上述の「②アメリカから先制攻撃を受けたとしても反撃できる能力」に関わるものですが、それについては次号に譲ります。
参考文献
Michael Elleman, “Video Casts Doubt on North Korea’s Ability to Field an ICBM Re-entry Vehicle”, 38 North, Jul 31 2017
平井久志「北朝鮮「今ある脅威」ICBM(上)来年にも米本土「奇襲」可能に」Foresight 2017年8月7日
平井久志「北朝鮮「今ある脅威」ICBM(中)「米中露」それぞれの「思惑」」Foresight 2017年8月7日
平井久志「北朝鮮「今ある脅威」ICBM(下)終わらない「圧迫」と「挑発」の悪循環」Foresight 2017年8月8日
「北朝鮮、核弾頭小型化に成功 米情報機関が分析 米報道」 日本経済新聞 2017年8月9日
“North Korea Gets Specific With Its Guam Threat”, Stratfor, Aug 10 2017