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ビジネスパーソンのための地政学入門

第30号 なぜ北朝鮮は日本上空を通過するミサイルを発射したのか!?

8月29日早朝、北朝鮮が日本上空を通過するミサイルを発射しました。今号ではその意味について考えてみたいと思います。

北朝鮮は非常に合理的で計算高い

北朝鮮の意図はいくつか考えられますが、大きくは①外交上の目的と②安全保障技術上の目的に分けられます。

まず①外交上の目的ですが、1つは対米国での(ささやかな)緊張緩和が考えられます。グアム近辺へのミサイル発射を検討していた北朝鮮が、今回は北海道の方向にミサイルを発射してきました。

もちろん、その先にはハワイ等米国の領土が控えるとはいえ、今回発射したのはあくまで中距離弾道ミサイルの「火星12」であり(北朝鮮発表)、ハワイまでは届きません。その意味では、対米国では北朝鮮が一歩引いた感があります。

ただし、同時にグアムを狙える力を誇示したとの見方も可能です。今回のミサイルは2700km飛行しましたが、グアムは3300kmです。この600kmの差の原因はわかりませんが、今回のミサイル「火星12」でグアムを狙えるということを示したかったとも考えられます。この意味で北朝鮮は半歩進んだとも考えられます。

もう1つは逆に、対日本の緊張を高めることです。日本上空を飛行するミサイル発射は5回目ということですが、今回初めて北朝鮮から「衛星」との発表はありませんでした。安倍首相としては断固たる措置を執るしかありません。

さらに大きな問題は、今回のミサイル発射は日本にとっては深刻(と捉えざるを得ない発射)だが、米国、韓国にとってはそこまで深刻ではないということです。北朝鮮が日米韓の足並みを乱れさせようとしているとも考えられます。(もっとも、今回発射された火星12は射程距離からして日本を狙うものとは言えないようです。)

技術上の目的も考えられるが・・・

次に②安全保障技術上の目的としては、高高度に発射する「ロフテッド軌道」ではなく、通常の軌道で発射することによるデータ取得が考えられます。

ただし、これに関しては大気圏再突入に成功したかは明らかではなく、また、データを取るのであれば太平洋海上で準備しておく必要があるが、今回はそのような形跡は見られないとの指摘もあるようです。

しかしもう1点懸念を生じうるポイントがあります。それはミサイルが3つに分裂したことです。新型兵器の可能性がありますが、その点は定かではありません。

以上を総合すると、今回はどちらかと言えば①外交目的が大きく、米国を(ほんの少し)懐柔しつつ、日米韓の連携にくさびを打とうとしたと言えるのではないでしょうか。

打つ手に乏しい日本

日本は単独で北朝鮮の核ミサイル開発を抑制する手段を、ほとんど持ち得ていません。まずは国連安保理で米国とともに石油禁輸実現を目指す方向になるでしょうが、中ロの反対は必至です。

参考文献

Charlie Campbell, “North Korea’s Missile Test Over Japan Was a Carefully Calculated Move”, The Diplomat, Aug 29 2017

北朝鮮、グアム予行演習か 軌道・飛距離を意識」 日本経済新聞 2017年8月29日

松浦晋也北朝鮮のミサイル、”目標”はあくまで米国」 日経ビジネスオンライン 2017年8月30日

Yukari Easton, “Terrifyingly Rational: North Korea’s Missile Over Japan”, The Diplomat, Aug 30 2017

「『火星12の発射に成功』 北朝鮮メディア、正恩氏立ち会い」 日本経済新聞 2017年8月30日

「日米、北朝鮮への石油禁輸提起へ 経済制裁の最終手段」  日本経済新聞2017年8月30日