ジオエコノミクス・レビュー™

ビジネスパーソンのための地政学入門

第31号 安保理で制裁決議が全会一致で採択。北朝鮮の次の一手は!?

今号の趣旨

日本時間の9月12日、国連安保理が全会一致で対北朝鮮追加制裁を決議しました。今号ではその意味について考えてみたいと思います。

制裁の中身

米国が当初提示した「最強の決議」案の中で、中ロが反対する部分については修正されたようです。主な内容は以下のとおりです。

原油・石油製品>

北朝鮮への原油輸出については、採択後の12か月の実績が、採択前の12か月の実績を超えないようにする

・石油精製品の輸出については、2017年10~12月は50万トン、2018年は200万トンに上限を設定

⇒ これにより、原油・石油精製品の輸出は約3割減の見込み

<資産凍結>

・資産凍結、渡航禁止対象から金正恩氏を外す

朝鮮人民軍高麗航空も資産凍結対象から外す

<その他>

・繊維製品の禁輸は残す

国連加盟国に対しては、北朝鮮労働者に就労許可を与えることを禁ず。強制送還は行わない

今回の決議に関する評価は分かれています。懸案の石油を含め、幅広い対象を盛り込み、中ロも北朝鮮の核開発を非難した今回の決議を、米ユーラシア・グループのイアン・ブレマー氏は「トランプ米政権最大の外交的勝利だ」と評価しています。一方で中ロの要求に妥協した今回の決議案を「骨抜き」と断ずる意見もあります。依然として「抜け穴」の存在も指摘されています。

北朝鮮の次の一手は!?

今回の決議案は、石油の全面禁輸や、金正恩氏を含む資産凍結・海外渡航禁止、軍事力を背景とした臨検といった、北朝鮮にとって致命傷となり得るものは排除しました。したがって現時点では、北朝鮮が追い込まれてついに「窮鼠猫を噛む」=先制攻撃を仕掛けることはなさそうです

そうなると、北朝鮮のオプションは大きく分けて2つです。「追加挑発する」か、「追加挑発しない」かです。しかしながら、国内向けに士気を保つ意味からも、「追加挑発しない」という選択肢は取りにくいでしょう。そうだとすれば、次は「いつ、どのような挑発を行ってくるのか」ということになります。

東京の上空にミサイルを飛ばす可能性もあり

本誌27~30号で解説した内容からすれば、北朝鮮のオプションは、①アメリカ本土を核攻撃する能力をつける(そのための実験を行う)、②第二撃能力(反撃能力)を獲得するための実験を行う、あるいは③7回目の核実験を行う ということになりそうです。

①については核の小型化はほぼ完成しているとすれば、後はICBMの飛距離と正確性、そして何よりも「大気圏再突入」技術の確立が課題となります。そのためにロフテッド軌道ではなく、通常軌道での実験を行う可能性は高いでしょう。

②については、予期しない時間・場所からの発射(移動含む)や、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の発射が考えられます。ただ、いずれにしてもアメリカの領土を狙うのは避けるでしょう。その際、東京の上空を飛ばす可能性は考えられます

(注:本記事公開後、9月15日午前7時頃、北朝鮮が弾道ミサイルを発射したというニュースが入りました。)

参考文献

“North Korea New Watered-Down Sanctions Leave Lifelines in Place”, The Diplomat, Sep 12 2017

北朝鮮の輸出「9割削減の効果」一連の国連制裁」 日本経済新聞 2017年9月12日

鈴木一人「「北朝鮮制裁」を骨抜きにした米国連大使の「権力欲」」 Foresight 2017年9月12日